ある日、善仲と善算は、石のうえで座禅を組む一人の人物に出会った。何者かと尋ねると、自分は光仁天皇の皇子であり、仏門に入りたい思いから都を抜け出し、紫雲たなびくこの山へやってきたという。
驚いた善仲と善算は、さらに尋ねた。「この深い山のなかで今日まで何を食べてきたのか」。皇子は、「日々、二羽のカラスが運んでくるものを食べている。食べてみると実に甘くて味がよい。そして不思議なことに、それを食べ始めてから雨露にあたっても身が濡れなくなったのである」と答えた。
皇子との出会いに運命的なものを感じた善仲と善算は、彼を草庵に招き戒を授けた。皇子は開成と名乗り、三人による修行が始まった。修行に励む三人は、仏道の妨げとなる悪い行いを防ぐべく、大般若経600巻の書写の誓いを立てた。すると突然、雨が降り出して雷が落ちた。多くの人が、落雷の場所に黄牛が周回するのを夢にみたという。三人は写経に必要な紙を作るための楮をそこに植え、大般若経の埋納場所に定めた。
画像出典元:勝尾寺所蔵「勝尾寺縁起」
〔貞享元年(1684)〕